研究室紹介動画
当研究室では,輸送機器の軽量化に資する難加工材のモデリングやその成形性の向上,また高い成形性を有する素材の創製などに取り組んでいます.
最近の研究事例を紹介します.
フェライトーマルテンサイト複合組織鋼板の結晶塑性モデリング
フェライトーマルテンサイト複合組織鋼板(DP鋼板)は,軽量化に資する素材として自動車構造部品への適用が進められています.DP鋼板の機械的特性は各相の微視的特性やそれらの相互作用により支配されることが知られていますが,その詳細は明らかではありません.本研究では,DP鋼板の結晶塑性モデルを構築し,それにより微視的特性に基づく機械的特性の高精度な予測と解明を試みます.その成果は,DP鋼板のさらなる利用拡大につながることが期待されます.

高張力鋼板の有限要素モデル
一様伸びを超える大ひずみ域を考慮した材料モデリング
塑性加工シミュレーションで用いられる材料モデルでは通常,単軸引張試験の一様伸びまでのひずみ域をモデル化します.一方,実際の塑性加工では一様伸びを超える大ひずみが生じる場合が多く,その挙動の表現は外挿に頼る場合が多いという問題があります.本研究では,種々の金属板における一様伸びを超える大変形挙動を実験的に評価し,そのモデル化を試みます.その成果は,塑性加工シミュレーションの高精度化につながることが期待されます.
アルミニウム合金板の結晶塑性モデリング
Al合金は,軽量化の観点から自動車ボディパネルといったプレス成形品に
広く使われるようになっています.一方で加工プロセスの最適化には,高精度な材料モデルに基づく数値シミュレーションの援用が不可欠です.本研究では,せん断応力も含む種々の応力状態における変形挙動の高精度な予測に資する結晶塑性モデリングを進めています.その成果は,プレス成形性や成形限界の高精度な予測に活かされます.

結晶塑性FEMによる穴広げ成形シミュレーション例
ZX10Mg合金板の結晶塑性モデリングとその塑性加工への応用
Mg合金板は,密度が低く比強度・比剛性が優れている特長から軽量材料として利用される一方で,室温加工性が低いという課題があります.そこで近年,室温加工性を向上させたZX10Mg合金板が開発され,その利用が期待されています.本研究では,本合金板の塑性変形挙動の解明とその結晶塑性モデリングを進めています.さらにその深絞り加工性を実験および数値解析から明らかにすることで,本合金板の幅広い塑性加工プロセスへの応用の可能性を探ります.

ZX10Mg合金板の円筒絞り加工に
関する実験および解析例
デジタル画像相関法とデータ駆動科学を駆使した新しい材料パラメータ同定技術の開発
結晶塑性モデルでは,微視的な変形を記述する材料パラメータを予め決定する必要があります.一方,応力-ひずみ曲線などの限られた力学特性から全てのパラメータを決定することは容易ではありません.そこで本研究では,デジタル画像相関法で測定される結晶粒レベルのひずみ分布とデータ駆動科学を組み合わせた新しいパラメータ同定手法の開発を進めています.ひずみ分布という“面”の情報を活用することで,高精度なパラメータ同定の実現が期待されます.

引張変形を受ける粗大結晶粒材におけるせん断ひずみ分布の例.
種々の金属材料における急変ひずみ経路下における塑性流動
急変ひずみ経路を受ける金属板では,法線則(塑性ひずみ増分方向が降伏曲面の法線方向と一致する法則)が成り立たないことが報告されています.しかしながら,経路変化後の塑性流動の発展や材料による違いなどは十分明らかではありません.本研究では,急変ひずみ経路を受ける種々の金属板の塑性流動を実験および結晶塑性解析により明らかにします.その成果は,材料モデルの精緻化とそれによる塑性加工シミュレーションの高精度化に活かされます.

ひずみ経路急変に伴う塑性ひずみ増分方向および応力比の発展の
例.右図で,赤線は実験結果,黒線は結晶塑性FEMによる
予測結果,紫線は連合流れ則に基づく参照解をそれぞれ示す.
微視的変形シミュレーションに基づく新規材料パラメータ同定手法の提案
結晶塑性モデルにおける材料パラメータは,nmスケールにも及ぶ微視的変形機構まで考慮して同定することで,マクロな変形のみの考慮ではできない精緻なパラメータ同定が期待できます.例えば材料変形はすべり変形の活動度合いを定量化することで記述することができますが,これを最先端の微視的シミュレーションを駆使して予測することで,塑性加工シミュレーションの高精度化に活かす取り組みを行っています.

分子動力学法による転位-転位相互作用
シミュレーションの例